どこに売り込むべきか?  連載第4回 00/10/24

売り込む決心がつき、道具も揃ったら、どこに売り込むべきかを検討しよう。
電車の吊り広告、街角にある店の看板、新聞折り込みチラシ、雑誌の挿絵……辺りを見渡せば分かるように、「イラスト」は至る所に存在する。ということは、イラストを使っている、つまりイラストレーターを求めている業者も無数に存在するわけだ。この章ではイラストを頻繁に使う主な業種を紹介する(評価は「イラスト使用頻度=使」「アプローチ成功度の高さ=ア」「ギャラの高さ=金」でABC段階評価。Aが最も高い。)
ただし、イラストを使うからといって手当たり次第に売り込んでも無駄足となる。本のカットでも実用書の解説図案のようなものから、童話、小説の挿絵までと、求められるイラストは様々だ。器用に何でもこなせる人は別だが、多くの人は自分のイラストに合う媒体を吟味した後、制作を担当する会社の連絡先をチェックすることになる。


●出版社(使A アB 金B)

書籍、雑誌を発行する会社。多様な出版物を発行している大手から、得意の分野の本だけで勝負する専門出版社まで様々。一見華やかに見える業種だが、営業規模は意外と小さい。一部の大手でこそ社員数百人だが、かなり有名な中堅で数十人、大多数を占める小規模な出版社は十人前後、二〜三人の所も珍しくはない。雑誌について言えば、大手でも一つの編集部はせいぜい数人から十人前後で構成されているから、礼儀正しくアプローチすればいきなり編集長と会うこともできる。
出版社は書籍の表紙や雑誌挿絵など、イラストを使用する商品を多数扱う(イラストを使わない出版社は無い、といっても過言ではない)。広告、ゲーム業界などと比べると、売り込みも比較的しやすいが、ギャラの相場は安い。

※売り込みポイント

・雑誌(マガジン)
イラストの使われていない雑誌は皆無に近い。常日頃から、どの雑誌がイラストを多用しているか、どんなタッチのイラストがどの雑誌のどの部分に使われているか観察しておこう。
書店に流通している雑誌には必ず奥付(おくづけ)がある。「奥付」は最終頁や裏表紙(業界用語では「表4(ひょうよん)」という)の端にあり、発行年月日、雑誌名、会社名、会社住所、電話番号、発行人、編集人(編集長)、印刷所などが記されているもの。ここで出版社の「電話番号」、「雑誌名」、雑誌の「編集長」を確認する。奥付には「発行人」と「編集人」という二人の人間の名前が載っている。発行人とは、その出版社の代表者(社長)なので、実際に本作りに携わっているとは限らない。重要なのは「編集人」。「編集人」のほとんどの場合が、その雑誌を現場で指揮する最高責任者、つまり編集長である。なお編集人の他に編集長がいる場合もあり(『ダ・ヴィンチ』など)、その場合は「編集長」という項目も用意されている。小さな出版社では、代表者自ら編集長をかねており、「編集・発行人」となっている場合もある。
アポイントは直接編集長に行う。最初に電話に出るのは大抵一編集部員だが、彼らには外注(ライター、イラストレーターなどへの仕事の発注)先を最終決定する権限はない。結局、編集長をOKと言わせなくてはならないのだから、いきなりアプローチする方が無駄がない。
手紙を書く場合は、
○○出版社、マガジン○○編集部 編集長○○様 と編集長の名前も明記する。
なお、雑誌編集者は短期集中的な仕事をこなすため、繁忙期は何日も家に帰れないほど忙しい。そんな時期に電話してしまうと、にべもなく断られる。しかし、日々誌面展開が変わるのも雑誌の特徴なので、一度断られてもあきらめることはない。前月は「売り込みは受け付けていない」などと言っていたのに、次の月には「売り込み歓迎」なんてこともある。
・書籍(ブック)
書籍の場合は、その性質によってはイラストが使われないものもある。固めの本にはあまり使われることはなく、どちらかというと若年層向けの本に使われることが多い。同じ小説でも、純文学より、SFやミステリー、さらにロマンスものや少年少女向け小説などに多く使われている。童話や絵本などには必ず使われている。
書籍にも「書籍第一編集部 部長」などといった肩書きを持つ編集長がいて、彼らが外注の権限を持っている。しかし雑誌編集長と違い、書籍編集長の名前を探すのは難しい。書籍奥付けには「編集人」の項目はないし、会社によって「部長」、「局長」、「編集長」などと呼び名も違う。
そのため書籍の場合、最初は「担当」と呼ばれる編集者にアプローチする。書店で気になる書籍を見つけたら出版社に電話し、
「○○○○(書名)の担当の方をお願いできますか?」
と言おう。書籍編集は雑誌と比べ長期的な仕事が多いため、「忙しい」と断られる確率は少ない。しかし、それに比例してイラストレーターを必要とする時期も少なく、担当と会うことができても仕事が来るのは一年後だったりする。雑誌と比べ、ギャラの相場は若干高い。
予算まで管理できる立場にある「担当」も結構いて、この場合、編集長に会うことなく採用・不採用が決まる。大手の場合この傾向が強く、小さな会社の場合、担当=編集長=社長などというケースもある。

●自費出版系の出版社(使C アA 金C)

著者から制作費を取って出版する会社で、出版社の中でも特別な存在。
※売り込みポイント
たくさんの自費出版系出版社の広告が掲載されている公募情報誌(公募ガイドなど)で連絡先をチェックできる。自費出版社は著者を満足させるために表紙やカットを使う「安価で上質のイラスト」を求めている。ギャラは安い。
会社の規模は小さいのでアプローチは楽だ。
「本のカットが得意です」などとアプローチすればかなりの確率で会ってくれる。

●編集プロダクション(使A アA 金C)

略して編プロなどと呼ばれる。大手出版社の有名な雑誌は、社内で制作されていることはまずない。出版社は企画だけ立て、実際の制作作業の一部あるいは全てを外部の編集プロダクションが担当することが多い。そのような場合、誌面のカットや写真の調達は編集プロダクション自身にまかされている。メインの部分で、出版社の編集者が「この人を使ってくれ」とイラストレーターを指名する場合もあるが、ちょっとしたカットや挿絵は編集プロダクションにお任せだ。
最近は、雑誌や本の企画そのものを編集プロダクションが持ち込んで、出版社がそれを買うということも、しばしば見られる。例えば「東京ウォーカー」などは、外部からの持ち込み企画だ。勢いのある編プロに属していれば「いきなりメジャーデビュー」ということもある。
※売り込みポイント
雑誌の奥付を見て、制作や編集が別会社になっている場合は、実際の制作作業は編集プロダクションで行われていると思っていい。奥付には編集プロダクションの住所は記載されていないので、電話帳で調べたり、直接、出版社に聞いてみる。
出版社に聞く場合は、
「雑誌○○の制作を手伝いたいと思っております。担当の編集プロダクション様の連絡先を教えていただけませんか」で良いだろう。
編プロに売り込んで採用された場合、「編プロお抱えイラストレーター」となることもある(契約社員、準社員としての契約を要求される場合もある)。編プロ経営者はいわばフリーの大将のようなものだから、あなたが「お抱え」になった場合、自分で営業しなくてもどんどん仕事が来る。創作に専念し、量をこなすことで技術を磨きたい人には適した売り込み先と言える。
ただしマイナス面もある。プロダクションは出版社とイラストレーターの間に入るのだから、あなたの収入は当然、中介料を差し引いたものとなる。すなわち一仕事におけるギャラが安い。また、掲載誌にクレジット(名前)が出ないという問題もある。出版社とあなたの直接契約の場合、頁には大抵「イラストレーション○○○○(あなたの名前)」などと記載されるが、編プロ経由の場合、「編集協力××××(編プロの名前)」などと編プロ全体としてのクレジットしか記載されない。自分で営業する覚悟があり、良質の仕事、責任ある仕事をしたい人には向かない。

●制作会社(制作プロダクション)(使C アC 金A)

テレビ番組、ビデオ、映画などの制作を担当する会社。小企業の作成するビデオ、映画は別だが、少なくともNHKおよび民法キー局では「完全に自社で制作している番組」はほとんどない。テレビ業界の構造は複雑で、大手制作会社が局から仕事を受け、実際の制作はさらに下請けの小規模制作会社が行っている場合もある。
※売り込みポイント
扱うものが映像に替わっただけで、実態はほぼ「編プロ」と同様。売り込みポイントも同じである。ギャラの相場は比較的高いが、イラストが重視される場面は少ない。例えば「子供向け番組担当の制作会社」など、ポイントを絞って売り込まなければ無駄骨となる。

●新聞社(使C アC 金A)

雑誌と違って一般の新聞にイラストが使われることはそれほど多くはない。ただ、本紙では使わないが、日曜板や家庭面など、特別な企画ではイラストを多用している。
※売り込みポイント
雑誌とほぼ同じ。ターゲットは各面の編集室や制作室となる。ただし大新聞の場合、頁ごとに下請けのデザイン事務所、編集プロダクション、印刷屋に発注している場合も多い(その場合は「下請けに任せてあるのでそちらに問い合わせてくれ」などと言われる)。
大手新聞社には雑誌を出版する出版部もある。忘れずにチェックしておこう。出版社だと思って売り込めば良い。

●業界紙(使D アB 金C)

世の中には業界別に業界紙(その業界向け専門の新聞)があるのをご存知だろうか。酒屋向け・理髪店向け・パソコン関係向けなど、あらゆる業界に業界紙が存在している。が、業界に関係ない人が見つけるのは難しい。
※売り込みポイント
どこも規模は小さいから、売り込みは直接編集長でいい。ただし、紙面そのものにイラストを使う新聞は少ない。それでも時折、業界向けの本を制作するからイラストが全く必要ない訳ではない。

連載第1回「売り込みとは?(6/23)」を見る

連載第2回「イラストレーターの役割(7/19)」を見る

連載第3回「売り込み前の準備(8/21)」を見る

連載第5回「どこに売り込むべきか?後半(12/14)」を見る

次回はこの続き「広告代理店・デザイン事務所への売り込み」について

 

トップに戻る