売り込み前の準備  連載第3回 00/8/21

本章では「売り込み」を行う前に準備しておきたい「道具」について解説する。基本的な「道具」を用意しておけば、いつでも売り込みができる。またこれが準備できないようでは、半人前と見られても仕方がない。
「売り込み」に使用する道具は名刺、作品集、サンプル集の三点。担当者に「作品集」を見せながら自分をアピールし、「名刺」と「サンプル集」を置いて帰るのが「売り込み」の常道だ。仕事が始まったらFAXも重宝する。


名刺

言うまでもなく、自分の肩書き、名前、連絡先を記したもの。
すでに「売り込み」に行かない(行けない)としても、あらゆる場面で重宝するので、もっていない人はこの機に用意したい。「売り込み」において名刺は、「相手に信頼を与える」、「相手に自分の名前、連絡先を保存させる」というふたつの役割を持つ。パソコンやワープロを利用して作っても良いが、印刷屋に発注しても五千円もあれば立派な名刺を作ることができる。名刺専門の印刷屋は全国各地にあり、電話帳で探せる。
アピールのために、名刺の端や裏に作品を印刷したり、色刷りで仕上げるのも面白い(当然制作費は高くなる)。

*作成上の注意点
☆売り込みでは「自分はプロである」とアピールする必要がある(詳細は次次回述べる)。名前だけの名刺、関係のない業種の名刺があっても意味がない。肩書きは当然、「イラストレーター」とする
☆相手が連絡しやすいように住所、連絡先、電話の他にも、持っていればFAXや携帯電話、Eメールアドレスなども明記する
☆自分のこだわりだけでとっぴなペンネームを付けると後悔することになる。ペンネーム使用の場合は「この名前でプロとして売り込んで行く」という心構えが必要だ。一度、ペンネームで売り込みを始めたら、せっかく覚えられた名前を途中で変えるわけには行かないから、ずっとその名で活動することになる。
知り合いの編集者が絵を気に入って、本人の家に「○○さん(ペンネーム)いらっしゃいますか」と電話をかけたところ、電話口に出た家族はペンネームを知らずに「そんな人いません」と応えて電話を切ってしまったというのは、実際に起こった笑えない話。せっかく仕事が貰えるというのに、これでは何のために売り込んでいるのかわからない。また自分のペンネームを忘れてしまい、呼ばれても気付かないという、とんでもないことにならぬよう要注意。

作品集

クリアフォルダやバインダーなどに「自信のある作品」、「個性のよく表れている作品」などを整理したもの。売り込み先ではこれを見せ、実力をアピールする。

*作成上の注意点
☆犬が好きだからといって犬の絵ばかり持参したのでは、「こいつは犬しか描けない」と判断されてしまう。できるだけ対象や趣の異なる作品を用意しよう。
☆売り込みの際、担当者が絵に目を通すのはほんの一瞬であることが多い。自分の特長を効率よくアピールするために、作品の順番もよく考える
☆フォルダを三つも四つも用意したりして、相手に時間的負担を与えるのは得策ではない。作品はひとつのフォルダに収め、厳選された十点程度に抑えたい。他の作品は担当者と面識ができてから後日、見せれば良い。
☆雑誌などに使われた作品があれば大きな武器となる。紙面のコピーを媒体名がわかるようにして収める。コンテストの賞状なども同様。

サンプル集

どんなに印象的な絵を見せても、持ち帰ってしまえば先方はすぐに忘れてしまう。先方に残しておくためのサンプル集(作品コピー)を作っておくことを忘れてはならない。これは急な問合わせがあった時や、郵送での投稿にも有効なので、複数作っておき、常に手元に用意しておきたい。

*作成上の注意点
☆サンプル(見本)とはいっても、鞄や「作品集」の中からニ〜三枚抜き出して「これ、置いておきますから」ではダメ。バラバラしたイラストを整理して取っておくような担当者はいないと思って間違いない(つまり近いうちに捨てられる)。「作品集」と同様クリアフォルダなどで整理すること。
☆かさ張ったり、著しく量の多いものもまずい。収める絵の枚数は五枚程度。自分の絵をよく吟味し、特長が表れたものを数点収めよう。
☆仕事の依頼の際に「サンプルと同じタッチで描いてほしい」などと言われることもある。昔の絵ではなく、最近描いた(今でも同じタッチで描ける)絵を収めること。
☆サンプル集は必ずA4以内のサイズにする。「作品集」はB4でもA3でも構わないが、相手の手元に残しておく「サンプル集」は、机の引出しやキャビネットに収まる大きさでなければならない。置き場所のないものを残していっては迷惑この上ない。大きな作品は縮小コピーしA4の大きさに。どうしてもB4やA3にしたい場合は紙を挟む形式になった薄めのA4バインダー(パンチレスファイル)を準備する(折り目の付かないように収めることができる)。
☆大きさだけではなく作品の材質も重要。立体物など論外だが、厚紙や色紙用紙などの硬い紙も相応しくない。(カラー)コピーもしくはプリンターで打ち出したものが良い。「カラーコピーでは原画の微妙な色合いが出ない」という問題もあるが、「サンプル集」は絵のタッチを見るためのものだ。実際に仕事を受注し、微妙な色合いが必要になった時に原画を送れば済む。
☆サンプル集の入ったフォルダーの表紙や背に名前、連絡先を明記する。「○○(名前が入る)イラスト集」などとタイトルを入れておくと相手が整理しやすい。これらは紙に書き、よくわかる箇所に(はがれないようセロテープで)貼り付けておく。名刺を貼っておいてもいいし、消えないならばマジックなどで書いても良い。
☆担当者が、「複数のイラストレーターを比較するために絵をフォルダーから出して並べる」などといったケースはよくある。その際にどれが誰の作品かわからなくなる可能性もあるから、各作品の端や裏面にも、氏名、住所、電話番号を記入しておく。念には念を入れておこう。
要は「相手が取り扱いに困らず、長期間保管しておける」ようなサンプル集を作ることだ。

FAX

「売り込み」に直接の関係はないが、仕事が始まると重宝するのでFAXは是非用意しておきたい。現在、「ラフスケッチ」や「細かい指定」の確認などはFAXでのやりとりが一般的。電話兼用のもので問題はないので、三〜四万円も出せば購入できる。イラストレーターにとっては、メール、携帯電話より先に揃えるべきアイテムと言える。

連載第1回「売り込みとは?(6/23)」を見る

連載第2回「イラストレーターの役割(7/19)」を見る

連載第4回「どこに売り込むべきか?前半(10/24)」を見る

連載第5回「どこに売り込むべきか?後半(12/14)」を見る

次回は「売り込み先」について

 

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