そもそも部数って何だ!
当たり前のことを書くが、発行部数とは「発行した本の合計部数」である。発行部数が50万部なら、その本は50万冊存在しているはずだ。
少し考えてみてもらいたい。全国にある書店の数は2〜3万店といわれている。単純に割り算をすると、50万部発行の本は一店舗につき17冊ずつ置いてあることになる。大きな書店にはそれ以上置いてあることもあるだろうし、すでに売れて誰かの家にもあるだろう。
かなり深刻な出版不況といわれる現在、50万部のヒット作ともなれば、どの書店もこぞって注文したがるはずだ。
しかし50万部突破したはずの本が小さな書店には一冊も並んでいないことはよくある。
どうしてだろう?
そもそも発行部数なんて怪しいものである。その理由は「雑誌」と「書籍(単行本・文庫本など)」によって異なる。「雑誌の部数」は次回書くことにして、今回は「書籍の部数」に触れる。
部数をごまかす理由としては、
1.読者対策
2.マスコミ・書店対策
3.見栄
などがある。
1.読者対策って何?
特に目当ての本もなく書店にふらりと入ったときに、目に飛び込んできたチラシが二枚
50万部突破 成功日記 小説小僧著
2万部突破 貧乏日記 エッセイ太郎著
どちらの作家も知名度は同じ、本の内容も甲乙つけがたそうだ。でも金額的に買えるのは一冊。あなたはどちらを買うだろう?
50万部突破→売れている本→みんなが読んでいる本→読まないと話題についていけない
と思うかどうかは分からないが、やはり成功日記を買う人の方が多いだろう。
「10万部」を「50万部」に変えるのも、「大衆に流されやすいという日本人」の性質を突いた戦略である。
「発行部数」以外には「刷数」などもいじられることがある。実際は5刷りまでしかしていないのに、奥付の数字を「10刷」と変えたりする。これも売れている本を演出する手段だ。
他には、「編集部員が本を買いまくる」という荒業をやっているところもある。
これは有名雑誌や新聞などの「書籍売筋トップテン」に自社の本を載せるのが狙いだ。そのようなチャートは、契約している大型書店からもらった書籍売上情報をそのまま載せるのが普通だ。従って、全国的にはそれほど売れていない本でも、契約書店で売れていれば、「書籍売筋トップテン」には食い込める。そのチャートを見て、買い求める読者を狙う戦略。
編集部員は必死な思いをして、(同じ人が同じ本ばかり買うのはおかしいから)時には人相を変え、時間帯を変え、自社の本を買いにいくのである。
2.マスコミ・書店対策って何?
さて、「読者対策」はできたが、肝心なのは「書店に本が並んでいるかどうか」だ。
いくら「その本を買いたい」と思う人がいても、実際に書店に並んでいないようでは大幅な売り上げアップは見込めない。書店や出版社に直接注文までする人は案外すくないものだ。
そこで「マスコミ・書店対策」が必要になってくる。
マスコミは常に「最新の話題を取り上げたがっている」。書店は常に「売れる本を置きたがっている」。
そこに「50万部突破」や「たちまち20刷」という餌を放りこむ。
話題の本としてマスコミが取り上げてくれれば、その本を欲しがる人は増える。書店も本を置きたがる。
そこらへんの理由から部数や刷数はよく変えられてしまうのだ。
3.見栄
編集者はインテリ意識からか見栄っ張りが多い。「他出版社のライバルに負けたくないから」とか「出版社自体の名誉のため」なんてことも。 |